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『人のセックスを笑うな』井口奈己監督 単独インタビュー

「人が恋に落ちる瞬間」をリアルに焼きつけ、「映画らしい映画」を実現した愛おしきラブ・ストーリー
 

舞台挨拶で松山ケンイチが永作博美に、ひざまずいてラブコールを贈り話題となった、山崎ナオコーラ原作の映画化『人のセックスを笑うな』(2008年2月2日(土)公開)。しかし本編を観れば、「撮影中、本当に永作さんを好きになっていた」という松山の求愛行動が、演出でもなんでもないことがはっきりわかる。長回し撮影の中で、松山の言葉のイントネーションが少しずつ出身地・青森県のそれに変わる、いわゆる“素”になっていく模様は、フィクションという枠を軽々と飛び越えたドキュメントであり、「人が恋に落ちる瞬間」が生々しくフィルムに焼きつけられた、まさに抱きしめたくなるような逸品だ。

物語は、美術の専門学校に通う19歳・みるめ(松山)と39歳の美術講師・ユリ(永作)の年の差恋愛を描いている。人妻のユリは、「だって触ってみたかったんだもん」という理由で、“年下の男の子”との恋を満喫し、年頃のみるめは、大人の女性の魅惑に翻弄される。しかし、“不倫モノ”でありながらまったくベトついていないのは、台詞に頼らず、アクション(肉体表現)でみせようとした、映画作りにおけるこだわりと熱意によるところが大きい。

いまどき珍しい「映画らしい映画」といえる本作は、繰り返しになるが、井口監督の、映画作りに対する真摯な姿勢がみえる。彼女が日本の最重鎮映画評論家・山田宏一さんの、学習院大学での映画公開講義を受講していたのは、知る人ぞ知る話。

「山田宏一さんは私にとって唯一の映画の先生。2004年の商業用映画デビュー作『犬猫』は、もともと自主映画だった作品をセルフ・リメイクしたものですが、リメイクすることに対して不安もありました。でも山田さんが、新文芸坐で上映されていたマキノ雅弘監督の、いろんなリメイク作を紹介してくれて、それがきっかけとなってリメイクに踏み切ることができました。映画をおもしろく観る方法など、いろんなことを教えていただきました」。

井口監督が師として慕う山田さんは、この『人のセックスを笑うな』を観て、「単刀直入に『若い男の子が美人女教師にあんなことをされたら、そりゃあメロメロになるだろう』とおっしゃっていました(笑)」。

ただ、まさにその通りで、男を取り合う2人の女の子の友情を描いた前作『犬猫』を、あえて「女性的な映画」と評するならば、今作は男の欲望にしっとりと寄り添ってくれる感があり、男性鑑賞者の共感を呼ぶ部分は多い。「実は、男性スタッフなどに、恋愛初期のエピソードをリサーチして回りました。みるめ君は、そういった実話をもとに作り上げられています。だから、男性から観て嘘くさいところは少ないかも知れません」。

本物のカップルのイチャイチャをのぞき見している気にさせる長回しの撮影、被写体の顔がはっきり確認できないくらいのロングショットなどを用いた描写はコラージュのようで、1950年代末〜60年代中盤におけるヌーヴェルヴァーグ作品をやんわり想起させる。

「実は山田さんにも『井口さんはヌーヴェルヴァーグだな』といわれました。ヌーヴェルヴァーグの監督たちは『映画とは何か』を追及して映画を作っていますし、私も『映画とは何か』を常に考えながら作っています。それを指して山田さんは『ヌーヴェルヴァーグですね』とおっしゃってくださったのですが、私は(フランソワ・)トリュフォーや(エリック・)ロメールくらいしか観ていないし、(ジャン・リュック・)ゴダールの映画もはっきりと覚えていない。だから自分ではそこまで意識はないんです」。

一歩引いた目線が松山と永作のラブ・シーンに生々しさをおびさせているが、そんな2人の演技中、井口監督はというと「現場ではほとんど何もしていなくて、ただ、スタッフのみんなとカメラの向こうでニヤニヤしながら、松山さんと永作さんを見ていました(笑)。カットがかけられないくらい、ふたりともイイ感じだったので、ちょっと見ていようかと」。

「ちょっと見ていようか」という感覚の矛先は蒼井優にも向けられた。「蒼井さんがクッキーを食べるシーンがあるのですが、特に私が何もいわなくても、どんどん口に放りこんでいって。だから『どこまで食べられるんだろう』とカットかけずに見ていたんです。そうしたらスタッフの子が『監督、鬼です!』と(笑)。蒼井さん、たくさん食べてくださいました」。

そして最後に、映画を観ていてちょっぴり疑問に思ったシーンについて、ズバリ聞いてみた。それは、仕事から帰ってきたユリが、部屋の中でぶっきらぼうに衣服を脱いでいくところ。ストッキングの上にパンツをはいているのだ。「普通は逆じゃないですか?」と尋ねたら、実はちゃんとした意図と理由づけがあった。

「確かにストッキングの下にパンツをはくのが普通なのかも知れませんが、撮影する上ではあまり美しく見えない。そうしたらスタイリストが、『海外のオシャレさんはパンツの下にストッキングをはいている』と教えてくれて、やってみたら、なかなかかわいらしかった。すると山田さんも『昔はパンツとストッキングがくっついていたんですよ。だからパンティーストッキングと呼ぶんですが、最近の人は知らないんですね』とおっしゃっていて。だからあのシーンを観ると、ユリの人物像が少し分かるかも」。

観れば観るほど奥深い『人のセックスを笑うな』。松山演じるみるめは10代特有の青さがチャーミングだし、永作は「2008年ベストヒロイン」と賞賛したくなるファムファタールぶり。蒼井優の身体表現力にも驚かされる。“井口マジック”がさえわたった、何だか独り占めしたい気持ちにさせる愛おしい作品である。

Text:田辺ユウキ


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井口奈己監督

井口奈己監督 プロフィール
1967年12月4日、東京都生まれ。黒沢清監督屋や矢口史靖監督らの現場にスタッフとして参加した後、2001年、初めて自主製作した8ミリ映画『犬猫』でPFFアワード2001の企画賞を受賞。さらに日本プロフェッショナル大賞新人賞にも輝く。2004年。その『犬猫』をセルフ・リメイク。商業用映画デビュー。同年のトリノ国際映画祭にて審査員特別賞、国際批評家連盟賞、最優秀脚本特別賞を受賞。『人のセックスを笑うな』は2本目の商業用映画監督作。


『人のセックスを笑うな』
松山ケンイチが
永作博美にリアルに恋した瞬間
     



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