『春の注目映画特集』

1987年ルーマニア。大学生のオティリアは、望まない妊娠をしてしまったルームメイトのガビツァを助けるため、違法である中絶の準備に奔走していた。しかし、手術場所として選んだホテルになかなか入ることができず、“闇中絶医”のベベも機嫌を損ねてしまう。妊娠4か月の今を逃すと堕胎できなくないため、彼女たちは必死にベベを説得し、ようやくそのときを迎えるが…。


秘密警察の存在と密告の社会。この本作のポイントは「映画的」な毒となり、これ以上にない緊迫感を生みだす。中絶禁止の国家にあって、主人公は、ルームメイトの違法中絶を成功させるため、くたびれるほど奔走する。かの問題発言「生む機械」と化せられた当時のルーマニア女性たちに対し、「中絶」の倫理観を説くことはできない。この物語を知ると、中絶が、モラルうんぬん以上の「現実」として突きつけられてしまう。
しかも、ルームメイトを助けることで弱みを握り、自分の手のうちに入れることで、密告社会における防御網を張るような、そんな主人公の思惑もみえ、映画的な深みと毒を感じさせる。「男は信用できない」というユニークな見方もできる、女性必見の女性論映画。


『4ヶ月、3週と2日』は、2007年度カンヌ映画祭でルーマニア映画史上初となるパルムドール(最高賞)受賞の快挙を成し遂げるなど、近年のルーマニア映画の勢いを象徴する秀作。1965年から1989年の「ルーマニア革命」まで長きに渡ったニコラエ・チャウシェスク大統領の独裁政権、その中で生まれた1966年の中絶禁止法。
本作のメガホンをとったクリスティアン・ムンジウ監督は、「1968年生まれの自分は中絶禁止の恩恵を受けた」と皮肉にも聞こえるコメントを残している。彼にとってこれが長編2作目。決して政治的な主題を持つ作品ではないが、意図せずしてそうなっているところに才気を感じさせる。今後も、激動の時代を送った祖国・ルーマニアの“重い真実”を伝え続ける。