「目新しいものではなく、シンプルな菓子を」。そう話すのは、天保3年(1832)創業の老舗和菓子店であるこちらの5代目店主・下邑隆さん。時代や世代を越え、人々に永く愛される菓子を考え続けている。
そんなお店には、明治末頃に誕生し、戦渦をくぐり抜けて現在も店頭に並ぶ銘菓がある。それが「御池煎餅」。麩焼きのような餅米粉の煎餅に亀甲型の焼き目をつけ、表面に砂糖を薄くひいたもので、一口かじると、まず軽い食感に驚く。味わいも、ほんのりとした甘みと隠し味に使われた醤油の風味が絶妙に合わさり、食べた者を幸せにしてくれる。親子3代に渡って日常のおやつにする地元の常連客も多い。
一方「大原路」は、5代目が考案した一品。豆を煎ってひいた州浜(すはま)と呼ばれる粉に砂糖を加えて固めた札型の落雁で、素材や形に奇抜さはない。デザインも、花や鳥などの柄をあしらった一般的なものではなく、丸を描いただけのもの。しかし、シンプルな外見に似合わず、季節や月ごとに配色を変えるなどの時期ごとの楽しみがある。例えば9月の「大原路」には、薄茶色の背景に黄色い丸を描き、ススキと月を表現している。「御池煎餅」と同じく、素朴だが後世へと語り継ぎたい銘菓だ。