ラーメンが好き?ラーメン屋が好き?
喫茶店やカフェに行くのが好きな人がいる。彼(彼女)らはコーヒーが好きで好きでたまらないから行っているというよりも、店の雰囲気やそこで過ごす時間や、一緒に行った人との会話を楽しむためにそこへ行っているように見える。何を飲むか何を食べるかということよりも、誰と行くか、何を話すかということの方が大切なように見える。あ、それなら酒場もそうか。
「ラーメンが好き」と人に言うと、「そうなんすか!ラーメン!いいすねぇ〜。どこがおすすめですか?」というようにだいたいリアクションは決まっているが、なかなかうまい答えが見つからない。僕からしてみると、喫茶店が好きな人と一緒なのである。つまりラーメンが好きというより、ラーメン屋が好きなのである。
よく雑誌やインターネットに登場する「ラーメン王子」や「ラーメン通」は、365杯以上のラーメンを1年間に食べているという。僕はとても真似できないが、きっと彼らもラーメンそのものが好きというより、ラーメン屋に行くことこそが好きなのだろう。
白いタオルを鉢巻にして「らっしゃい」と声を張り上げる店員さん、調理場・客席・レジ前、常に誰かが動き回って躍動感のある店内、手持ちぶさたゆえに何かを考えようとするけど頭に浮かぶのはラーメンのことばかりという待ち時間、なぜかそのときに限って誰からもメールが来ないケータイ、駐車場がなくて路駐したけど店内からクルマは見えなくてヒヤヒヤ、今は存在しないメーカーの給水器、汗をふきつつ大釜に向かう職人さんの背中、そういうもの全てひっくるめてラーメン屋の魅力なのである。
1軒ごとに笑いがあって、沈黙があって、ごちそうさんがあって、それが積み重なって歴史や色が作られてゆく。ラーメン好き=ラーメン屋好きにとっては、店ごとの違いを知ることや、自分と呼吸の合う店を見つけることは、うまいラーメンにめぐりあうことと同じくらい、あるいはそれ以上に楽しいのである。
ショッピングセンターの中にあるラーメンテーマパークや、ファミレスみたいにマニュアル化されたラーメン屋に対して僕が違和感を抱くのは、上記のような「ラーメン屋」の楽しさがほとんど省略されているからだ。
味の染み込んだラーメン屋に行くことは、ラーメンの味がどうであれ、それ自体が楽しい。街で遊ぶ楽しさや店を迷うつらさはラーメン屋通いに凝縮されているなといつも思う。わずか5、600円でそんな楽しさが味わえるなんて、なんとありがたいことだろうか。その気持ちを一人でも多くの人と共有したくて、僕はラーメンの記事を書いている。
(文:藤田功博)
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